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まだ夜明け前の暗い中、アラームで目覚めた。焦りながら準備をし、急いで家を出た。新横浜から新幹線で名古屋へ向かう。新幹線の小さな窓から、富士山の上におわん型の薄い雲が帽子のようにかぶさっているのが見えた。

名古屋駅に着くと、恋人はチケットの変更手続きのため先に近鉄の乗り場まで走っていった。わたしはひとり、スーツケースを引きながら近鉄の乗り場を目指す。名古屋はあまり馴染みがない土地だから、人々の様子や雰囲気をしっかりと観察しながら歩き進める。都会ではあるが、地方都市の雰囲気がある街だと思った。

 

レモンティーを買い、ビスタカーの2階席に乗り込む。座席をひっくり返して、ボックス席を作っていたところを車掌さんが通りがかり、注意されるかと後ろめたい気持ちで目を合わさないようにしたら、「ほかの人が来たら戻してください」と声をかけられただけで、なんてのんびりした電車なんだろうかと驚いた。

 

景色はどんどんと寂しくなっていった。人の気配がなく、建物も古ぼけている。平日ということもあるだろうが、電車に乗り込んでくる人も少なかった。

 

伊勢市駅で降車。手荷物預かり所にキャリーバッグを預けると、窓口の女性たちが関西弁を話していて、いつもとは違う土地に来たんだとはっと気づいた。

 

伊勢神宮の外宮をお参りし、バスに乗り込む。猿田彦神社を参拝し、ランチを予約していたお店へ歩いて向かうと少し雨が降ってきた。

二階席のお座敷に通されると、窓のすぐそばに五十鈴川が流れていた。木々の緑とゆるやかな川の流れがとても美しく、名物だという穴子の白焼きや手作りの豆腐はとても美味しかった。

心配していた雨は昼食の間にすっかり止んでいた。おかげ横丁を通り、内宮を参拝する。雨が降ったからだろうか、ひんやりした空気に気持ちが凛とした。

参拝を終え、バスに乗り込み志摩観光ホテルへ向かった。ひたすら続く山道に疲れてきたころ、急に景色が開け英虞湾が現れた。

楽しみにしていた志摩観光ホテル、フロントは落ち着きがあってやわらかい雰囲気があった。スタッフも若い女性が多い。馴れ馴れしくも仰々しくもない丁度いいサービスが心地よいと感じた。

部屋に入るとカーテンを開け、窓際の椅子に座り英虞湾を眺める。波がめったに立たないのだろう、海のすぐそばから木々が生い茂っているのが綺麗。養殖用のいかだがぽつぽつと浮かんでいる。

ラウンジに移動し、スパークリングの赤(muddy rougeという日本のワイン、ぶどうジュースの様でとても美味しい)を飲みながらバルコニーのベンチで写真集を眺めてゆったり過ごした。

夕食は隣の新館にある「浜木綿」という和食のお店を予約していたから、散策もかねて新館まで散歩をした。新館のラウンジからはホテルの屋上に出ることが出来て、英虞湾や賢島の景色を一望できる。恋人が作ってくれたジントニックを飲みながら、だんだんと暮れてくる景色を眺めていた。

「浜木綿」は思っていたよりも広々として、照明やインテリアも明るい雰囲気づくりとなっていた。やわらかく穏やかな雰囲気の男性給仕の方に日本酒の飲み比べセットをおすすめしてもらい、それとともに伊勢海老のグリルや刺身の盛り合わせをつまんだ。どのお酒もとても美味しく、給仕さんとの会話も楽しかった。

部屋への帰り途中、また屋上ラウンジに寄って大きなソファに腰掛け、ワインを飲んだ。海から吹き寄せる冷たい夜風が心地よかった。